正月早々、ちょっと暗い話で申しわけありません。
実は、昨年末に、飼っていたネコチャンが癌で亡くなりまして、正月は、妻と二人でネコチャンの思い出話に暮れる毎日でした。昨年の11月頃から徐々に衰えていっての死でしたから、心の準備はできていましたが、たとえ猫とはいえ、生き物が死ぬのはつらいですね。
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ちょうどその頃、私は、小此木啓吾さんの『対象喪失』(中公新書)という本を読んでいました。1979年に書かれた本で、小此木さんのベストセラー『モラトリアム人間の時代』と相前後して出た本ですが、今でも本屋で売られているロングセラーです。30年近く前の本なので、時代背景を反映した箇所は、ちょっと古く感じられますが、内容的には今でも立派に通用する名著です。
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この本で書かれている“対象”とは、もちろん内的(心的)世界の“対象”です。フロイトの説いた「悲哀の仕事(mourning work)」から、対象関係論の考え方まで、幅広く紹介され、精神分析学がどのように心的現象をとらえるかが、とても分かりやすく書かれています。対象関係論の入門書としても、お勧めの1冊です。
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この本では、「うつ病」者の病理についても、「対象喪失」の考え方から説明されています。テレンバッハのような精神病理学的なうつ病論も面白いですが、精神分析学から見たうつ病論も、とても勉強になります。昨年秋に出版された本で、松木邦裕さんが編著をしている『抑うつの精神分析的アプローチ―病理の理解と心理療法による援助の実際』(金剛出版)という本があり、この本はタイトルどおり、精神分析学の側から抑うつを取り上げた本です。実例も豊富で、とても読み応えがあります。対象関係論を勉強していないとちょっと難解な本ですが、抑うつの心理がとても丹念に描かれていて、小此木さんの本と合わせて読むと、いっそう理解が深まります。
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我が家のネコチャンを、文字通り“目の中に入れても痛くない”ほど可愛がっていたのが、私の妻です。妻は、ノラだったネコチャンを保護し、10年ほど前から家猫として飼い、とても大事にしてきました。その妻の手の中で、ネコチャンは臨終のときを迎えたそうです。ネコチャンの写真をベッドの脇に飾り、毎日水とお花を取り替えながら、妻の心の中で「悲哀の仕事」が、今日もまた一歩ずつ進んでいきます。 |