～2008年1月21日 名古屋中ロータリークラブ 例会での講演より～
中谷 智美
産業カウンセラー・キャリアカウンセラー
コアカウンセリング支援協会 キャリアキャリアカウンセリング講師
私は産業カウンセラー・キャリアカウンセラーとして、様々な方々の就労支援をさせて頂いています。新卒の社会人では、三重大学のキャリアセンターで働くことの考え方から入社試験対策まで指導し、送り出していますが、無事4月に入社してからも、わずか数ヶ月で「辞めたい」 「こんな筈ではなかった」「求めていた仕事と違う」と言う声が聞こえてきます。今はこうしたミスマッチ感に悩む若者を対象に厚生労働省やハローワークが無料の相談窓口を設けていますので、皆様も是非心にお留めいただければと思います。
実例を挙げてキャリアカウンセリングの何たるかをお話ししたいと思います。まずは製造業で契約社員として働いていた36歳の男性。風邪をこじらせて１ヶ月半休むハメに陥ったのですが、いざ復帰という時、会社が気を利かせてそれまでのハードな職場に配置換えをしたのが裏目に出て、鬱に入ってしまいました。
私共は面談の中から、その方が抱いている仕事や現状への不満を伺い、何ができるかを引き出していくのですが、話は心の問題につながり、職業選択の是非にまで進んでいきます。最終的に出てくるのはミスマッチ。皆様は会社で働く誇りを持ち、会社のために力を尽くし、自分の能力を上げていくのは当たり前だと捉えていたと思いますが、隣を気遣う余裕もなく今のタイトな職場環境では、会社で働く誇り自体を持ちづらくなっています。会社の自分への対応や条件しか見えず、「できない」理由を並べて自分を追い詰めてしまう例が多いのです。私たちの立場は目の前の相談者と対峙するだけで、その背景となる同僚や上司との関係、職場環境まではあまり突っ込めませんが、そのお気持ちを聞くことに徹して、今後どうすべきかを段階的に引き出すようにしています。
学業成績が良く、できる筈の人が、ふとしたことでへこんだ途端立ち上がれなくなってしまう例も後を絶ちません。研究職として就職した女性は、優秀さ故に周囲から疎まれ、溝ができたことで疑心暗鬼に苛まれて会社へ行けなくなってしまいました。また、徹底した目標管理の下、成績を上げるために怒鳴りあう環境に耐えかねて、不眠と食欲減退に悩まされつつも「休んだら何を言われる分からない」の一念で薬に頼って通勤している金融系の方もいます。どちらも、「それは甘い」の一言で片付けられそうな話ですが、それを言っては始まりません。最近の若者はコミュニケーション力が足りないとよく言われますが、事業環境の厳しさで３０～５０代の中堅社員や管理職のコミュニケーション力も低下しつつあります。厚生労働省が社内のメンタルヘルスに関する指針を出し、何かがあれば労務管理責任が問われる昨今です。経営者の皆様も、できるだけ社員を見て、目線や顔色の悪い社員がいれば自ら声をかけたり、人事や総務で止まっている問題はないかとお気をつけていただければ幸いです。
キャリア教育は、社員の能力やレベルをアップさせるものだということで、キャリア教育施しても他社へ流れてしまうだけではないかという懸念もあると思います。しかし一方、社内活性化策としてのキャリア教育・キャリアカウンセリングに積極的に取り組んでいる会社も多々あり、そうした会社では社員の流出を自社の風土や体制を見直すきっかけとして捉えていると伺っています。
経営者の皆様としては、社員が休んだり退職することで発生する損害に考えが行きがちだと思いますし、それなりにコストをかけて確保した人材ですから、きちんと働き、社内キャリアを積んで欲しいと思うのは当然です。しかしそれはそれとして、仕事の内容やキャリアがその人に合ったものであるか否やを早い段階で見極めることは、不幸にして違っていた場合の方向転換もさせやすく、会社と社員双方のプラスになります。社内マネージメント体制や指導法等々に気を配ることで、大切な社員の方々が心を病む前の段階にお留め頂ければと思います。
また、私はよく学生達に「着ぐるみや鎧を着て面接を受けるな」と言っていますが、受かりたいという想いがあれば、程度の差こそあれ己をより良く見せるものです。皆様には是非、学生の真実の姿と、会社の丈にあった人材であるかに目を光らせて頂きますようお願いします。 |
