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Empty Chair

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2013/04/09
あなたが気になっている些細な事柄をこそ相談してください--らくらくカウンセリングオフィスです。

当社役員の脇田です。
「レ・ミゼラブル」のCDが世界的なベストセラーになっているようですね。先日ようやく全曲盤の2枚組がリリースされたのでさっそく聞いてみました。「One day more」までが1枚目に収められ、暴動のシーンからが2枚目になっていて、この後半部分の収録時間が増えています。そのため、蜂起から戦闘、ガブローシュの死、そしてバルジャンの脱出までの流れが自然で分かりやすくなっています。この流れの中で聞いていくと、エディ・レッドメインの演じるマリウスの「Empty Chair」がとても説得力を持ち、彼の慟哭がよく伝わってきます。(もちろん、レッドメインの歌唱力がそれを裏打ちしているわけですが)

日本語版の訳詞では、マリウスのこの曲は「カフェ・ソング」となっていますが、オリジナルは「Empty chair at empty table」(誰もいないテーブルと椅子)です。ここでは、この曲の「誰も座っていない椅子」について考えてみたいと思います。

ゲシュタルト療法には、「エンプティ・チェア」というワークがあります。セラピストが椅子を2脚持ち出し、一方の椅子にクライエントを座らせます。そしてもう一方の空いた椅子にクライエントが語りたい相手が座っていると想像させ、その相手にクライエントの思いをぶつけさせます。つまり、親に言いたいことがあるならば、空いている椅子に親が座っていると思って、その相手に「お前なんか死んじまえ」とか「お母さん、私に気付いて」とかと語るわけです。その後、クライエントを反対の椅子に座らせ、逆の立場で「自分」に向かって話をさせます。つまり、親の立場に立って、「あなたのことが心配だから文句を言っているのよ」とか、「放っといて悪かったね」とかと言わせるというワークです。このようにして「地」と「図」を入れ替えるのが、ゲシュタルト療法の手法です。

この「エンプティ・チェア」は単に関係性の相対化を行なっているだけですが、マリウスが直面した「Empty Chair」には、もう少し実存的な問題が潜んでいます。

「椅子」というものは、「人がそこに座る」という目的性を持ったモノです。それは座った時にちょうど落ち着くような形と素材でできており、座った人(座り手)に対して落ち着きとリラックスを提供します。その結果、座り手は一息入れ、コーヒーやビールを飲んだり、あるいは誰かに向かって話しかけることができます。そう、ちょうどアンジョルラスがマリウスにしたように、革命を語ることもできるわけです。そのような座り手の「不在」を、このEmpty Chairは暴露するのです。その結果Empty Chairは、マリウスに対して、彼が「存在」していることの意味を問うていきます。「友よ、友よ、許してほしい。僕がこうして生き残っていることを」とマリウスが許しを乞う時、マリウスは自分が生きていることの意味を自らに問うているわけです。

マリウスの慟哭を、精神分析学ならば「対象喪失による見捨てられ不安」として分析するでしょう。確かにユーゴーの小説に登場するマリウスは発達的にみても幼く、戦闘の行なわれたカフェに戻って友人を失った悲しみを(あるいは自分が見捨てられてしまった不安を)抱き、涙することはあり得るでしょう。しかしレッドメインが演じるマリウスには、そのような心理的不安感よりも、友の死によって露わになった実存的な不安感の方が、ふさわしいように思われます。それはフーパー監督の演出によるものなのか、あるいはレッドメインの演技によるものなのかは分かりませんが、少なくとも舞台で演じ歌われる「Empty Chair」とは大きく違う何かが、おそらくは何か本質的な違いが、そこには現れているように思います。つまり、レッドメイン演じるマリウスが「友よ許してほしい」と語る時、そこには、心理学的な問いではなく、実存的な問いが潜んでいるのです。

以前にも書きましたが、「レ・ミゼラブル」は登場人物のほとんどが死ぬ作品です。最後に生き残るのはマリウスとコゼット、そしてテナルディエです。「死」の悲劇性がこの作品を不朽の名作にしていることは確かですが、単にそれを映画というドラマツルギーに置き換えただけでなく、私たちの「生きていること」への問題へと変換したところにこの映画の本当の面白さがあります。残念ながらアカデミー賞ではアン・ハサウェイの助演女優賞しか取れませんでしたが、個人的には、作品賞はこの映画の方がふさわしいように思います。

 

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