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チッコリーニのベートーベンを聴く

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2014/01/12
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当社役員の脇田です。

皆さんは年末・年始をどのようにして過ごされましたか? 私は、久々に少しまとまった休みが取れたので、以前からやろうと考えていた「ベートーベンのピアノソナタの聴き比べ」をしました。

ベートーベンは全部で32曲のピアノソナタを残しています。「月光ソナタ」とか、「悲愴」「熱情」「告別」などの有名な曲もあれば、タイトルの付いていない短い曲もあります。最晩年に残した30番~32番は、いずれも深い瞑想と抒情性にあふれた名曲と言われています。しかし1番から32番までのいずれの曲も、ベートーベンが生涯にわたって書き続けたもので、どの曲にもベートーベンらしいロマンティシズムと“革新性”が見られます。1曲1曲に、隅々までわたる詳細な工夫と計算が見られ、聴いていて飽きることはありません。

ここ数年、ピアノソナタの全曲を録音したCDがリリースされるようになってきました。以前は、つまり1970~90年代は、ケンプとかアラウとかバックハウスといった大家が録音したものしか手軽に聞けるものはなく、中堅ピアニストのアシュケナージやブレンデルやバレンボイムの録音は高くてなかなか手に入らなかったものですが、それらも近年は安価なボックス盤で手に入るようになりました。

しかもそれだけでなく、ルイ・ロルティ、コルスティック、ポール・ルイス、メデューエワといった若手の録音も次々にリリースされています。これら若手の演奏はいずれも素晴らしく、スピード感があり、細かいニュアンスもしっかりと弾ききっています。超絶技巧のロルティ、ロシア風の力強さのあるメデューエワ、ユニークでダンサブルなH.J.リム、いずれも今回の聴き比べで堪能した演奏です。

これらのCDのうち、特によかったのが、ルドルフ・ブフビンダーの録音です。ブフビンダーは2回、全曲録音を行なっていて、私が聞いたのは1回目の演奏です。ピアノソナタだけでなく、変奏曲やバガテルまで録音した「ピアノソロ曲全集」になっていて、あの「エリーゼのために」まで収録されている完全版です。ブフビンダーは今来日していて、N響とモーツァルトのピアノ協奏曲を演奏するようです。テレビやラジオでも放送される予定なので、聴くのが楽しみです。

ブフビンダーのこの1回目の演奏は、圧倒的なスピード感と、旋律の明快な歌わせ方、そしてそれらのからみあいが見事です。いわゆる“一人で弾いているとは思えない”演奏で、若き日の溌剌とした妙技が味わえます。2回目の全曲演奏版も昨年リリースされ、これも評判は良さそうで、ぜひ一度聞いてみたいと思っています。

そしてもうひとり、今回の聴き比べで最も感動したのが、アルド・チッコリーニのベートーベンです。

チッコリーニと言えば、もう90歳くらいになるフランスのピアニストで、若い時は「サティ弾き」として有名でした。もちろん、フランス系ピアニストらしく、ショパンやリスト、ラベル、ドビュッシーも良いのですが、ショパンやリストは他に有名なピアニストが目白押しですから、チッコリーニはその人たちの影に隠れてしまっていました。つまり、「サティ弾き」という称号は、実はあまり有り難くない愛称であったわけです。

EMIから、チッコリーニが50年代~90年代に録音した全曲CDが発売されています。これはかなり以前に買って聞いていたのですが、実はこの全集の中に、ベートーベンの曲は2曲しか入っていません。それも、おそらくアンコールで演奏したのであろう2曲で、「エリーゼのために」と、「月光ソナタ」の一部だけです。ドイツ系」の作曲家ならばブラームスもモーツァルトもシューベルトも多数録音しているのに、なぜベートーベンのピアノソナタはないのだろう--そう思っていたところ、数年前に、あるマイナーレーベルからようやくベートーベンが出ました。しかもいずれも、90年代から2000年代にかけて、つまりチッコリーニ70歳代の演奏です。

チッコリーニのベートーベンは、少しゆったり目のスピードで始まります。しかし速い速度指定の楽章では、それなりのスピード感を持って弾きます。「リタルダンド」(だんだんゆっくり)の指定のあるところでは、着実にスピードを緩め、「デクレッシェンド」(だんだん弱く)では、消え入りそうになるまで弱めていきます。かといって力のない演奏ではありません。70歳とは思えないくらい確実でしっかりとした演奏です。

思えば、若い時からチッコリーニの演奏は「確実でしっかり」としていました。むしろ、「誠実」と言っていいくらい聴き手を安心させて音楽を楽しませる、そんな演奏でした。EMIの全集を聞き直してみると、サティのように誰でも弾けるような「易しい曲」でも、1音1音をしっかりと弾いているのがよく分かります。かといって固くなったり機械的になることもありません。ロシアのピアニストのようにオーバーに朗々と歌うこともありません。でももちろん、フランス流の“エスプリ”の効いた、細やかな遊び心のある繊細さも兼ね備えています。リストのような難曲でも、ごまかしや曖昧さを残すことなく、「確実にしっかりと」弾ききっています。それと同じことを、チッコリーニはベートーベンのピアノソナタでも、行なっているわけです。しかも70歳を過ぎてもなお、同じように。

このベートーベン全集と同じレーベルから、ショパンとシューマンとグリーグを演奏したCDが出ています。これらも70代~80代に録音したもので、いずれも素晴らしい演奏です。特に、ショパンのノクターンは深い味わいがあります。ノクターンは、演奏するのには簡単な曲ですが、これを聴き手の気持ちに届くように弾くのは、逆に至難の業です。ハイデガー的に言うならば、「存在者の背後に存在そのものが現れるような弾き方」が要求されます。半世紀以上にわたって「確実にしっかりと」を誠実に行なってきたチッコリーニ。彼だからこそ到達することができた境地が、そこにはあるように思います。
 

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