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竹田青嗣の現象学的欲望論

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2014/03/16
らくらくカウンセリングオフィスは、創業以来、企業のメンタルヘルスへの取り組みを支援してきました。そこで培われたノウハウと知見が、私たちの財産です。


当社役員の脇田です。

以前に読んだ本を今になって再読するという機会が、最近、ときどきあります。それは、最近の新しい本に魅力がないからではなく、むしろ新しく出た本を読んでいて、「ああ、ここに書かれているこのことは、かつて読んだあの本のあのことを敷衍したものだなあ」ということに気づくことがあるからです。私がここ1~2年、フッサールやハイデガーや木村敏の本を再読しているのも、精神分析学や行動療法に出会うことによって現象学の意義がよりはっきりと理解できるようになったからに他なりません。これらの本を読み返してみると、かつてはよく分からなかった部分や読み飛ばしてしまっていた個所に、新たな発見があり、理解がより一層深まるのを実感します。

そのような形で最近になって再発見しているのが、竹田青嗣さんの現象学です。竹田さんはいわゆる“全共闘”世代の哲学者で、すでに60を過ぎていらっしゃると思いますが、彼が90年代から2000年代初頭に書いた著作は、今でも色あせることなく、新鮮な響きを持って、「人間のこころの本質は何であるか」を教えてくれています。

「竹田現象学」の多くは文庫化され、手軽に読めるようになっていますが、その著作は、大きく分けて次の4つのジャンルがあります。

1.フッサール/ハイデガーの現象学の解説本。現象学の解説本は文庫や新書でも多数出ていますが、それらの中で最も分かりやすいのが、竹田氏の解説書です。ただし、竹田氏は「現象学」という学問分野のある一面しか取り上げていないので、専門家からはほとんど相手にされていません。逆に言うと、「その一面だけに特化しているからこそ分かりやすいのだ」とも言えます。
2.「エロス論」と呼ばれる著作群。ここでは、竹田氏が自らのオリジナルな思想を展開しています。氏の言っている「エロス」とは、ギリシア哲学で言うところのそれで、生命の根源的なエネルギーのようなものです。より一般化した呼び方では「欲望論」ですが、私たちが言ういわゆる“欲望”とはかなり異なります。氏の言う「欲望」に一番近い概念は、ニーチェの言う「力への意思」ですが、ハイデガーの言う「気遣い」の考え方とも重なります。
3.近代哲学の思想史と「自由」概念についての哲学史。ここには、プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェなどの解説書が含まれます。ただ、これらの解説にも、常に上記「2」の考え方が貫かれているところが竹田氏ならではの観点です。
4.現代思想の解説本。20世紀後半に現れた構造主義とポストモダニズム思想を取り上げ、これらの思想の持つ問題点を明らかにした著作です。ここには、「言語とは何か」という問いが常に関わっているので、いわば竹田氏の言語哲学論にもなっています。

これらのジャンルのうち、カウンセラーとして是非読んでおきたいのが、「2」のエロス論です。なぜなら、竹田エロス論は、フロイトの精神分析学を踏まえながらそこからの発展を目指したものだからです。

実は竹田さんは、若い頃にフロイトの精神分析学に傾倒してそのエッセンスを吸収し、一時は精神分析家を目指そうとしたこともあったそうです。フロイトもまた「エロスとタナトス」という概念を提出しており、生命の根源的なエネルギーとして「エロス」を捉えていますが、その考え方は竹田エロス論にも受け継がれています。しかし一方、現象学という哲学を収めた竹田氏からみると、精神分析学はあくまでも“科学”であり、客観的世界観を前提とした学問体系に過ぎません。そのため、フロイトのエロス論にも、哲学的に見れば限界と過誤が潜んでいます。そのような限界を踏まえた上で、フロイト理論の本質を抜き出し、そこに現象学的手法を加えることによって独自の実存哲学を構築していきます。竹田エロス論は、フロイト理論を批判的に継承した新しい「欲望論」なのです。

竹田氏のエロス論を理解するには、「意味とエロス」「エロス的世界像」の2冊を読むのがよいです。特に「エロス的世界像」は、恋愛論やエロティシズム論を含んでおり、文学作品への言及も多いため具体性が高く、分かりやすい内容になっています。とは言え、思想書であることには変わりはありませんから、読むにはそれなりの時間と忍耐が必要です。

しかし、眠くならずにこの本を読むためのコツがひとつだけあります。それは、「ここに書かれている事柄は、自分に関することだ、今この本を読んでいる私自身について書かれているのだ」と考えて読むことです。それはちょうど、フロイトの「夢判断」やユングの「象徴論」を読むと誰もが、「ああなるほど、ここには自分にも当てはまる事柄が書かれているなあ」と思えるのと似ています。しかし、フロイト/ユング理論はあくまでも仮説なので、疑おうと思えばいくらでも疑えてしまいます。しかし竹田エロス論は、疑いを差し挟めないような“明証性”をもっています。なぜならそこには、現象学的方法論が生かされているからです。

現象学はあくまでも「内在」を根拠にし、そこから始めて世界を構築しようとします。「内在」とは、私たち誰でもが体験し得る内的経験のことですから、それを疑ってしまうと必ず論理的破綻をきたしてしまいます。フロイト/ユングが科学的仮説を根拠に理論を構築したのとは違い、竹田氏は、あくまでも「内在」を根拠に議論を進めていきます。だからこそ、そこで展開されている議論は「読んでいる私自身について書かれた事柄」になるわけです。

また、文体が論理的で素直なのも、読みやすい理由の一つです。思想書の多くは、レトリカル(文学的)な文体のものが多く、いわゆる衒学的(奇をてらったような文体)なものが多いのですが、竹田氏は、そのような文体が持つ言語的な問題点を上記「4」の著作群で批判しているため、自らの文体はとても論理的でストレートです。「自分のことだ」と思ってモチベーションを持ち、文章の論理を一つずつ追っていく読み方をすれば、きっと最後まで読みとおせるはずです。

この竹田エロス論がある程度理解できたら、ぜひ「1」と「4」も読んでみてください。そして一番大切なのは、その後で「3」を読むことです。ここには、ジョン・ロールズの正義論も、アマルティア・センの自由論も超える新鮮な観点が示されています。それは、「社会」というものに私たちがどう向き合っていくべきかのヒントが示されているのです。特に、3.11後の社会に対して、3,11後の私たちが関わっていくためのヒントが。

 

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