~2007年7月23日 名古屋中ロータリークラブ 例会での講演より~
ここ最近、社会の中でメンタルヘルスー心の健康・心の健康づくりが
大変注目され、問題視されています。
昨年の春闘の前、経団連は経営者の考え方の指針の1つに
「メンタルヘルスの重要性」を掲げましたが、企業にとって、貴重な
財産である社員の方が心の健康を損ない、休職されたり退職されることは
大変なダメージです。その損失は年間1兆円とも言われ、真剣に取り組む
べき問題と考えられています。
心の病の代表・うつ病は「心の風邪」とも言われ、いつ、誰がなっても
不思議はありません。他にも色々ありますが、休職・退職に陥りやすい
のが神経症です。
たとえば朝起きて、出社しようと玄関に出たところで、傘立てにある傘の
骨の玉を数え始めてしまう。馬鹿馬鹿しいことだと分かっていても
やめられない。そうこうするうちに時間が過ぎ、会社は遅刻。
仕事にも支障を来し、会社に行くことすら出来なくなってしまうー
強迫神経症と呼ばれるものです。
あるいは通勤途中、いつものように地下鉄に乗ったら、突然心臓がバクバク
し始め、血の気が引き、手先が冷え、このまま心臓が止まってしまうの
ではないかという恐怖に襲われ、崩れ落ちるように倒れてしまった。
しかし、救急車で運ばれた先の病院では「異常なし」。
さっきの心臓バクバクが嘘でない以上、いつ何時またそうなるか
わからないと言う不安ばかりが膨れ上がり、地下鉄に乗ることはもちろん、
家から一歩も出られなくなってしまうー不安神経症と言われています。
2006年度、仕事のストレスなどによる精神障害で労災が認定されたのは
205件と過去最高を記録し、うち、過労自殺と認定された方は66人に
達しました。世界保健機構によると、自殺という最後の行動を取る方の
約8割が精神障害に該当するー心を病んで命を絶つ方が殆どなのですね。
私も「どうぞ、次回もお目にかかることが出来ますように」と祈りながら
お別れする方が何人もいらっしゃいます。1988年以来、日本の年間自殺者は
交通事故死の4倍に当たる3万人台を推移し続け、未遂はその10倍に
上ると言われています。自殺が問題なのが、一旦自殺という行動を
起こされると、身近な人5人は精神障害に至りかねないショックを
受けるということで、30万×5で150万人。人口の1%強という大変な
数です。
そこで、皆様にお願いしたいのが「あ、危ない」と思われたらまず、
精神科・神経科・心療内科などを訪ね、診断を仰がれることです。
こうした分野への偏見はまだまだ根強いものがありますが、身体の病
同様、早期発見・早期治療です。医師の指導に従ってきちんと薬を
飲み、生活すれば治る病気だということをお知りおき下さい。
カウンセリングとは、病気の発見と治療・症状の除去を目的とする医療行為、
知識や技能の伝達・獲得を目指す教育行為に対し、臨床心理学に基づき
対人援助を行う臨床心理行為です。相談者の成育歴やものの考え方・
価値観を理解し、元気になる手がかりとして新しい価値観を発見したり
再構築するお手伝いをするもので、まずはその方のお話をとことん伺います。
よく、管理者の方が元気のない部下に対して「気の持ちようだから」
「頑張ればよくなるよ」などと励まされますが、それが出来なくなっている
から問題なのです。お話を伺い、理解する中でその方のものの見方や
考え方のゆがみを見つけ、直すお手伝いをしていくーたとえば「働かざる者
食うべからず」社会生活を営む上では至極まっとうな信条ですが、
そのことに凝り固まり、柔軟に物事を見られなくなっていると、働けない自分は
もう、世の中の役に立てない。死んだ方がましだという考えに至ってしまいます。
そこをどう立て直していくか。社会的や役割や社会の中で培われた価値観に
とらわれず、自分の原点を見直し、自分への信頼感を取り戻す試みが
鍵となっていきます。
|