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クマの神様

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2011/07/08
らくらくカウンセリングオフィスでは、企業のメンタルヘルス対策のコンサルティングを行っています。

当社役員の脇田です。

川上弘美さんの作品に「神様」と言うタイトルの短編集があって、これが実は川上さんのデビュー作です。川上弘美と言えば「センセイの鞄」がつとに有名ですが、「神様」の方もいろいろ賞をとった作品で、ほのぼのとした「川上ワールド」が展開します。この「神様」は、それぞれ動物が登場人物になっていて、それが他の作品にはない世界を形成しているのですが、中でも、作品集のタイトルにもなっているクマが登場する「神様」が秀逸です。

実は、「群像」の6月号に、このクマの登場する「神様」を改編した「神様2011」という作品が掲載されていて、これはなんと、被爆後の「フクシマ」を扱った作品です。原発事故以来何カ月かがたったある夏の日に、「わたし」と、近くに引っ越してきたばかりの友人のクマ(もちろん動物の熊です)とが河原にピクニックに行くというストーリーで、原作を読んでそれとの比較で「神様2011」を読むと、そこにはとてもシュールな世界が描かれているのがよく分かります。

放射能があちらこちらに残り、防護服を着ないと近づけないような場所の河原へ、「わたし」とクマは軽装でハイキングに行くわけです。もちろん、そこで交わされる「わたし」とクマとの会話や、行き交う人との交流、クマの意外な行動(魚を素手で捕まえたり、「ウウウ」と唸ったりする行動)と、クマなりの礼儀やものの考え方、それらは十分に「ほのぼの」としているのですが、であるからこそ、放射能残留物がまだ大量に残っているその場所との違和感が不思議な効果をもたらします。

「神様」というタイトルは、最後にクマが「わたし」に別れの抱擁をしながら言う次の一言に由来しています。「クマの神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように」。

さて、「神-動物-自然災害」の3点が揃っていることからもわかる通り、この小説は極めて「神話」的な構成になっています。あまりにもほのぼのとしすぎていて、「神話」構造になっていることが分かりづらい程ですが、ここには確かにユング的な、つまり元型的なモチーフが現れています。クマはつまり、童子元型、あるいはトリックスターでしょう。自然災害のような大きな出来事に直面した時、そこに童子(あるいは英雄)が出現して新たな局面を切り開くというストーリーは、神話や昔話に、あるいは現代のSF小説やSF映画にも登場する展開です。ということは、単なる「ほのぼの小説」が書きたくて川上さんはクマを登場させたのではなく、彼女の中の何らかの元型が、デビュー作を書いた時にも、そして3.11に於けるフクシマの現状を目の当たりにした時にも、同じように働いたからこそ、その元型がクマという形をとって表現されたのだと言えそうです。

「神様2011」では、元型と、作者の自我(意識)との関係は、きわめて良好です。なんせ、別れ際に抱擁を交わし合うくらいですからね。それに対して、クマを見てその姿形をいぶかる周りの人間の行動の方が、元型を畏れ、避けようとしています。この関係と構造は、原発を巡る多くの人の対応を象徴しています。あくまでも理知的に、あるいは科学的に、場合によっては社会・経済的に、このフクシマ事件を見ようとする人々は、クマ(=無意識)を頭から抑圧し、「風評被害に惑わされず冷静に行動してください」と喧伝します。一方、クマ(=無意識)と共にある人々は、「科学と成長の限界」を指摘し、「脱原発」を主張します。最近のニュースは、この両者のせめぎ合いの中で右へ左と揺れ動きながら状況を伝えてきています。

さて、よくよく考えてみると、企業のメンタルヘルスというものも、このような「クマを抑圧するか、クマと共にあるか」ということを巡って議論されているように思えます。企業における小さな「クマ問題」の大がかりになったものが、フクシマ問題なのかもしれません。

いずれにしても、働く人の上にも「クマの神様のお恵み」が降り注ぐことを、私は願ってやみません。

 

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