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お盆休み

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2011/08/16
らくらくカウンセリングオフィスは、働く人の悩み事にお応えするEAPプロバイダーです。
当社役員の脇田です。

正月とお盆だけは、ある程度まとまった休みが取れるので、読みたいと思いながらなかなか時間が取れずにそのままになっていた長編小説を読むようにしています。今年のお盆に挑戦したのが、ピンチョンの「ヴァインランド」です。

トマス・ピンチョンは現代のいわゆる「ポストモダン文学」を代表する米国の小説家で、「いつノーベル文学賞をとってもおかしくない」と、よく言われています。その割には日本では訳書があまり紹介されていなく、文庫にもなっていないため、著作を読むには、図書館で借りるか、さもなければ新潮社から出ている全集を買うしかありません。ただし、「ヴァインランド」だけは河出書房から出ている池澤夏樹さんの個人編集になる「世界文学全集」にも入っていて、こちらの方が、二段組みで文字は小さいものの、その分少し安く、また訳注も充実しているので、私はこちらを買い求めて読みました。

今から30年ほど前に私は、当時初めて日本で訳出されたピンチョンの「V.」を、読み始めたものの途中で投げ出してしまったことがあったのですが、「ヴァインランド」の方はとても面白く読めました。とは言っても、プロットも起承転結もはっきりとしていない「ポストモダン」小説ですから、ストーリーを一言で説明することは難しいです。ただ、ここにはピンチョンが紡ぎだしたいくつかのストーリーとイメージの断片がぎっしりとつめこまれていて、その断片を読みながら読者の内部で湧きあがる新たなイメージを味わうだけでも十分な面白さがあります。それらのイメージ群は、決して明るいものでも楽しいものでもないのですが、しかし逆に暗いものでも陰鬱なものでもありません。その辺のイメージの喚起力が、ピンチョンの「味」となっています。この「味」はちょうど、村上春樹や大江健三郎を読むときのそれと、とてもよく似ています。

この「味」はおそらく、私たちが持っている何らかの「無意識」とつながっているのでしょう。それは私たちが昔話や民話を読むときに味わうあの「味」と同じです。

「ヴァインランド」には数多くの登場人物が出てきますが、読者はそれぞれ、自分が抱きうる最も近いイメージを、その登場人物の誰かに投影してこの本を読みます。その「誰か」とは、主人公の一人で60年代学生運動の女性闘士だった「フレネシ」だったり、そのフレネシの娘である「プレーリィ」だったり、あるいは幽霊と交信のできる「武(タケシ)」だったりします。また、その登場人物一人一人には、数十年の人生があり、その人生をピンチョンは念入りに描きこんでいくため、投影像はよりはっきりとした形をとり、「親しみ」のある人物へと磨きあげられていきます。その結果、読み終わった後、読者は、「フレネシの気持ちが分かる」とか「プレーリィも若いのに大変ね」とか、「ヴォンドも悪者だけど、憎めないところもあるよな」とかの感想を抱くようになります。それはちょうど、昔話を読んで私たちが、「ああ、魔法使いのおばあさんは怖いけどかわいそうな面もあるね」とか、「主人公が悪魔に食べられちゃうのは残酷だけど、自業自得でもあるよね」とか、まるでその人が身近な存在であるかのように、リアリティを持って感じられるのと同じです。これが、ピンチョンにも村上春樹にも、またグリム童話やケルト民話にも共通する「味」です。

もちろん、「ヴァインランド」は「民話」ではなく「小説」なので、このような「無意識への琴線の張り方」だけでなく、現実世界への批判や問題提起などの「意識へのキックオフの契機」も含んでいます。なにせ、ニクソンの政策とかベトナム戦争とかFBIの暗躍とかも描かれているくらいですから。つまり、「無意識」だけでなく、「意識」の世界も同じように扱うという「小説」ならではの役割も、ここにはしっかりと描きこまれているのです。

さて、お盆休みもそろそろ終わりです。実はあと1冊、お盆に読んだ本があり、それは中上健次の「枯木灘」です。この作品はちょうどお盆の頃の出来事を扱っているのですが、こちらは「ヴァインランド」とは正反対の、もっと重く、沈鬱な作品です。しかしこの作品を語るには、「路地三部作」(あるいは「鳳仙花」を入れた四部作)を読む必要があります。なぜなら、「枯木灘」と「岬」に描かれているテーマが「父親殺し」つまりエディプスコンプレックスであるのに対し、「鳳仙花」にはグレイトマザーが描かれ、「地の果て」にはその両者の統合が描かれているからです。しかし、「鳳仙花」も「地の果て」も長~い長編です...

というわけで、この話の続きは次の正月の後になりそうです。
 

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